ICU SPP(Science Partnership Program ) in 2006


ICU SPP 実行プログラム


プログラムの実施概要

                 吉野輝雄

 

1. はじめに

2006年夏休みの2日間(8/8,9)、国際基督教大学に高校生たちを迎え、「マイクロスケール実験で見る化学の世界」というテーマで、化学実験を体験学習するプログラムを実施した。都内の2つの高校から22名の生徒と4人の教員が参加。大学側からは、2人の外来講師と3人の専任教員、7人の実験助手(TA)の学生が指導に当たった。

 

2. マイクロスケール化学実験

まず、「ムラサキキャベツとpH(酸性度)」という実験に生徒全員で取り組み、その後、2つのグループに分かれ、「電気分解と電池」と「金属イオンの分析」というテーマから1つ選び実験を続けた。

マイクロスケール実験の特徴の一つは、普通の教室の机上全生徒が実験するところにある。実験方法は、24個あるいは96個のくぼみ(ウエル)付きのプラスチック製プレートを使い、点眼ビンに入った試薬を滴下して行う。従って、使用する薬品の量が少ないので実験廃液の量も少なく、環境に優しく、また、危険性が小さく、比較的短い時間で行える実験教育であることが特徴である。

 

3. 第一の実験「ムラサキキャベツとpH」  実験1. 紫キャベツとpH

最初の実験は、酸性度の違いをムラサキキャベツを指示薬代わりに使って調べる実験であった。荻野先生から実験内容と方法について説明を受けた後、生徒全員が実験に取り組んだ。

24ウエルのマイクロプレートを使い、pH 1〜13のウエルにムラサキキャベツの抽出液を1滴ずつ加えてpHによる色の変化を観察した。ウエルがピンク→青→緑と鮮やかに変色するので、一目でpHによる違いが分かる。高校生たちは、その色変化に目をみはっていた。pHという新しい物差しを知った瞬間でもあった。実験は60分ほどで終了。結果を記録しデジカメ撮影して、次の自由課題へと移った。ある生徒はムラサキキャベツの代わりにオシロイバナを使った場合の色変化を調べ、また、ある生徒は長く放置したために腐り始めた牛乳のpHを調べたいと、持参した試料を取り出して楽しそうに実験していた。

 

4. 第二の実験(1) 「水の電気分解実験と電池」 実験 2. 電気分解と電池 

昼をはさみ後半の部に入り、第一グループは荻野先生の指導で水の電気分解実験と電池の実験を行った。電気分解は、荻野先生がまず「爆鳴気」のデモ実験として行った。2本のまち針を刺したミニプラスチックスポイトに9Vの電気を通す。そこで発生する水素と酸素ガスをスポイトの先からシャボン玉液に導くと、小さな泡ができて盛り上がる。そこにライターの火を近づけると、小さいながらパチンと爆音を発して弾け、皆の耳と目が集中した。しかし小さなスケールなので全く危険性がなく、繰り返し何度でも実験できる。

続いてプラスチック製の1MLの注射筒を2本立てて水の電気分解を行い、発生する気体の体積を観察した。電気を通すと発生した水素と酸素ガスが2本の筒に体積比2:1を保ったまま増えていくのが分かる。ここで、教科書で学んだ通りのことが起こっていると実験によって納得できる。また、この事実からゲイリュサックの気体反応の法則を学ぶ。

次のダニエル電池の実験では、化学反応によって電気を起こることを確かめた。自分で作った電池の起電力をテスターで測定し、ミニファンが回転することを通して電池の原理を学ぶことができる。実験の手引きには、正負の電極の金属と溶液を透析膜で隔てるように書かれているが、2人の生徒は、注射筒を連結させても電気が起こるか試す実験へと発展させた。彼らは、ミニファンを回転させることはできないが、起電力が生じることをテスターで確認した。この実験は、「塩橋」の概念を取り入れたもので、何の手引きもなく実験を始めた高校生の自由な発想に指導していた教師たちを驚かせた。

 

5. 第二の実験(2)「金属イオンの反応」  実験 3. 金属イオンの反応

 残り半分の生徒は、96ウエルのプレートを使って8種の金属イオンの分析(反応)を行った。試験液を数滴ずつ加えるとウエルが青、赤、白に変色し、プレート全体がモザイク模様になる。その美しい色変化に生徒たちの目が輝いた。試験管を使った場合には3週間にわたって行う実験が、マイクロスケール実験ではわずか60分ほどで終了する。実験は、目的、理論、方法について十分予習してから行い、結果を理論と対応させて考察しないと深い学びができない。ところが、この金属イオンの分析を選択した生徒の大部分は高校1年生で、まだ学校で学んでいない内容であった。しかし、彼らには戸惑いの表情などみじんもなく、どうして違いがでるのか知りたいという好奇心に満ちていた。ここがTAの出番で、あちこちで質問、説明のことばが交わされていた。講師の芝原先生は、“解答”の詳しい反応式を印刷して配布されたが、謎解きの鍵となっただろうか。変化を観察した体験と驚きは彼らの中に残ったことは確かであるが、完全な理解は化学の授業、あるいは大学へと先送りとなったのではないかと思われる。

 未知試料の分析と自由課題では、さらに生徒たちが積極的になり、ある生徒は昼のお弁当をわきに置き、時間を惜しんで取り組んでいた。その時の生徒たちの生き生きとした姿が印象的であった。

 

6. 実験のまとめと発表

2日目は、4つのグループに分かれ、前日の実験結果について討論し、実験内容と自分たちで考えたことを発表用のパソコンソフトでまとめる課題に取り組んだ。スライド作りにはTAの学生たちの手助けが必要かと予想していたが、IT時代の高校生らしく自力でまとめあげ、工夫を凝らしたスライドを作り、中味の濃い発表を見せてくれた。特に、自由課題の発表は、工夫したり考えたことが盛り込まれていて実験する楽しさが伝わってくるような発表であった。内容だけでなく、皆の前に出てもの怖じせずにマイクを握り、実験結果をしっかりと発表する姿にも感心させられた。 

 

7. プログラムを終えて

 こうしてSPPは参加した高校生たちには実験する化学の楽しさを感じる機会となり、指導に当たった教員には新しい教育方法の有効性を見させてくれた。TAの大学生には準備の苦労を忘れさせ、関わった者一人ひとりに爽やかな充実感を残してSPP2006が終わった。

 
 普通の教室で実験
 
 ▲ マイクロプレートを使ってpH実験(左:紫キャベツで、右:万能pH試験紙の抽出液で)
 
  ▲ 96ウエルのマイクロプレートを使って8種の金属イオンを分析
 

 「SPP 2006 at ICUの報告書」をマイクロスケール化学の実施をお考えの方にお送りします。

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181-8585 東京都三鷹市大沢 3−10−2
国際基督教大学教養学部理学科
  吉野輝雄


  

 

    実験: 1. 紫キャベツとpH    2. 電気分解と電池   3. 金属イオンの反応

 
  
 ※問い合わせ:yoshino@icu.ac.jp