Viktor Obendrauf 教授を偲んで
東北大学名誉教授 荻 野 和 子
美しい実験,爆発の実験は強烈な印象を与えます。2000年8月、ブダペストで行われた第16回国際化学教育会議の最終日に,このような実験に出会いま
した。大ホールのステージで,手許で起こる変化をはっきり見せるスクリーン,その装置や反応式を示すスクリーン,2台のカメラによる映像の巧みな切り替
え,次々と演じられる実験,多くは爆発をともなうものですが,に1時間があっという間に過ぎました。感激して,講演後すぐにステージに上がって,実験装置
を見せてもらいました。
これがObendrauf先生の鮮烈な国際舞台への本格的デビューだったようです。その実験の素晴らしさが,世界に広く知られるようになり,その後いろ
いろな会議で特別講演に招かれるようになりました。講演時間よりも準備の時間が長いこと,片付けにもかなりの時間を要すること,他の人に手伝わせないこと
など,密かに観察し,日本にも招くことはできないだろうか,と思いましたが,2001年3月に退職した私にはそのすべはないと諦めていました。幸い
2005年から名誉教授も科研費をいただけることになりました。そこで,Obendrauf先生に,日本にくることを打診したところ,デモ実験の講演会の
ほかに,教員研修もやってくださるということでした。必要な機材や試薬の準備にとりかかっていたら,2006年8月のザルツブルグの1週間にわたる教員研
修に参加するようにとのお招きを受けました。研修につきましては,科研費の報告書に書きました。実際に一通りの実験(Viktor’s Cannon
等の製作を含む)を行い,日本での講演会,研修の準備に必要なもの,心構えがわかりました。今から思えば,日本での研修を成功させるために,私を研修に参
加させたのでしょう。これも,Obendrauf先生の綿密さの表れの一つです。
2006年9月下旬ついに,東北大学と日本化学会で「マイクロスケールケミストリーミニシンポジウム−オーベンドラウフ教授を迎えて」の開催にこぎつけ
ました。実験とワークショップの素晴らしさは,参加者を魅了しました。またマイクロスケール実験の楽しさ,有用性を示してくださいました。国際基督教大学
の吉野教授が,次の年に再びObendrauf先生を招聘してくださったのは,その表れです。
筆者が,最後にお会いしたのは,2009年1月タイでの第4回国際マイクロスケールケミストリーシンポジウムです。写真は主催者のタイ化学会会長
Prof.
Tantyanonから感謝状を受け取っているところです。会議が開催されたピサヌロク市に,海外からの参加者全員がバンコクから夜晩く到着したら,デモ
実験に必要な小さなトーチが準備されていないことがわかりました。しかし,翌日の講演では,煙草用のライターで見事な「火の歴史」の実験を行いました。秒
刻みで行う実験のために,健康状態は良好とはいえないにもかかわらず,Obendrauf先生は,予備実験でほとんど眠る暇もなかったのではないでしょう
か。このテーマのデモを見るのは,3度目でしたが,新しくつけ加えられたものがあり,何度みても新しく気付くところがあり,感動させられました。

以下は,昨年12月24日にいただいたメールです。
two days ago I did my Christmas Lecture at my university in
Graz. Because of my crazy disease it was very strenuous for me, but it
worked, although it took me many hours to prepare the lecture hall and
to put my stuff into my car again. Please look at the webpage of our
university
http://www.uni-graz.at/newswww/newswww_detail.htm?reference=163982
Attached you will find some other pictures which show that I would need
some more weight and health.
Unfortunately in summer I had another crazy surgery in a hospital in
Vienna. Since several months I try to recover again, but everything is
difficult.
I presume that the whole mankind in our world have the same highest
“chief” in heaven. We measure the time in days and hours: Therefore:
With the burning 2010 attached I wish you A MERRY CHRISTMAS AND A HAPPY
NEW YEAR Perhaps the year 2010 will be a better one for me. Anyway: I
am looking forward to meeting you again some day.

2010年がさらによい年であることを願った先生でしたが,8月に旅立たれました。天国で“highest
“chief”にあたたかく見守られているでしょう。
2006年にザルツブルグにお訪ねして間近に接して以来,Obendrauf先生が時の刻みを常に意識されていることをひしひしと感じてきました。
先生の素晴らしい実験,才能,完全を目指す執念,新しい実験の開発と参加者に驚きと感動を呼び起そうという情熱は,永遠に私たちの中に生き続けるでしょ
う。
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