Viktor Obendrauf教授のご逝去を悼んで

オーストリアのグラーツ大学 (Graz Univ.)のViktor Obendrauf 教授が、2010年8月29日に逝去されました。Obendrauf 教授はマイ
クロスケール化学の世界で知らない人が誰一人いないほど有名で、特に、華麗なデモ化学実験に魅了された人には、決して忘
れることのない印象を残して行かれました。2006年と2007年に来日され、化学教育に携わる人々にマイクロスケール化学の
素晴らしさを鮮やかに示され、化学教育に関わる日本人と親しい交流も持たれました。
これからのご活躍と学会における先導を楽しみしていた時期に天に召れた事は、誠に残念としか言いようがありません。
しかし、Obendrauf 教授が遺されたものは決して褪せることがないでしょう。教授との交わりに恵まれた私どもマイクロスケー
ル実験化学ワーキンググループメンバー一同、心から感謝とご冥福をお祈り致したいと思います。

生前、Obendrauf 教授とつながりのあった方から追悼の言葉をお寄せ頂きましたので、以下、順不同で掲載させて頂きます。

東北大学名誉教授 荻 野 和 子
創価大学教授 伊藤真人
京都教育大学教授 芝原寛泰
ICU高校非常勤講師 長尾明美
国際基督教大学名誉教授 吉野輝雄

【写真】
ICUでのSPP講師として来日   pdfファイル
GrazにObendrauf 教授を訪ねて pdfファイル

 

           Viktor Obendrauf 教授を偲んで
                                        東北大学名誉教授 荻 野 和 子


 美しい実験,爆発の実験は強烈な印象を与えます。2000年8月、ブダペストで行われた第16回国際化学教育会議の最終日に,このような実験に出会いま した。大ホールのステージで,手許で起こる変化をはっきり見せるスクリーン,その装置や反応式を示すスクリーン,2台のカメラによる映像の巧みな切り替 え,次々と演じられる実験,多くは爆発をともなうものですが,に1時間があっという間に過ぎました。感激して,講演後すぐにステージに上がって,実験装置 を見せてもらいました。
 これがObendrauf先生の鮮烈な国際舞台への本格的デビューだったようです。その実験の素晴らしさが,世界に広く知られるようになり,その後いろ いろな会議で特別講演に招かれるようになりました。講演時間よりも準備の時間が長いこと,片付けにもかなりの時間を要すること,他の人に手伝わせないこと など,密かに観察し,日本にも招くことはできないだろうか,と思いましたが,2001年3月に退職した私にはそのすべはないと諦めていました。幸い 2005年から名誉教授も科研費をいただけることになりました。そこで,Obendrauf先生に,日本にくることを打診したところ,デモ実験の講演会の ほかに,教員研修もやってくださるということでした。必要な機材や試薬の準備にとりかかっていたら,2006年8月のザルツブルグの1週間にわたる教員研 修に参加するようにとのお招きを受けました。研修につきましては,科研費の報告書に書きました。実際に一通りの実験(Viktor’s Cannon 等の製作を含む)を行い,日本での講演会,研修の準備に必要なもの,心構えがわかりました。今から思えば,日本での研修を成功させるために,私を研修に参 加させたのでしょう。これも,Obendrauf先生の綿密さの表れの一つです。
 2006年9月下旬ついに,東北大学と日本化学会で「マイクロスケールケミストリーミニシンポジウム−オーベンドラウフ教授を迎えて」の開催にこぎつけ ました。実験とワークショップの素晴らしさは,参加者を魅了しました。またマイクロスケール実験の楽しさ,有用性を示してくださいました。国際基督教大学 の吉野教授が,次の年に再びObendrauf先生を招聘してくださったのは,その表れです。
筆者が,最後にお会いしたのは,2009年1月タイでの第4回国際マイクロスケールケミストリーシンポジウムです。写真は主催者のタイ化学会会長 Prof. Tantyanonから感謝状を受け取っているところです。会議が開催されたピサヌロク市に,海外からの参加者全員がバンコクから夜晩く到着したら,デモ 実験に必要な小さなトーチが準備されていないことがわかりました。しかし,翌日の講演では,煙草用のライターで見事な「火の歴史」の実験を行いました。秒 刻みで行う実験のために,健康状態は良好とはいえないにもかかわらず,Obendrauf先生は,予備実験でほとんど眠る暇もなかったのではないでしょう か。このテーマのデモを見るのは,3度目でしたが,新しくつけ加えられたものがあり,何度みても新しく気付くところがあり,感動させられました。

以下は,昨年12月24日にいただいたメールです。

two days ago I did my Christmas Lecture at my university in Graz. Because of my crazy disease it was very strenuous for me, but it worked, although it took me many hours to prepare the lecture hall and to put my stuff into my car again. Please look at the webpage of our university

http://www.uni-graz.at/newswww/newswww_detail.htm?reference=163982

Attached you will find some other pictures which show that I would need some more weight and health.
Unfortunately in summer I had another crazy surgery in a hospital in Vienna. Since several months I try to recover again, but everything is difficult.

I presume that the whole mankind in our world have the same highest “chief” in heaven. We measure the time in days and hours: Therefore: With the burning 2010 attached I wish you A MERRY CHRISTMAS AND A HAPPY NEW YEAR Perhaps the year 2010 will be a better one for me. Anyway: I am looking forward to meeting you again some day.

 

 2010年がさらによい年であることを願った先生でしたが,8月に旅立たれました。天国で“highest “chief”にあたたかく見守られているでしょう。
2006年にザルツブルグにお訪ねして間近に接して以来,Obendrauf先生が時の刻みを常に意識されていることをひしひしと感じてきました。
先生の素晴らしい実験,才能,完全を目指す執念,新しい実験の開発と参加者に驚きと感動を呼び起そうという情熱は,永遠に私たちの中に生き続けるでしょ う。

 

   Viktor Obendrauf教授の逝去を悼んで

                                  創価大学教授 伊藤真人

 

 It is a regret that Professor Viktor Obendrauf has passed away.
I was greatly impressed by his well-designed demonstrations using various kinds of gasses in small-scale hands on experiments, once in Korea at the 19th International Conference on Chemical Education in 2006 and once in Japan in 2007. His demonstrations inspired many teachers and students in Japan and, I believe, much more of them in all over the world.
 He kindly contributed a thirteen page article containing some of his experimental demonstrations to Chemical Education International (CEI), the journal published by IUPAC Committee on Chemistry Education (CCE), Volume 8 (2007, http://old.iupac.org/publications/cei/vol8/0801xObendrauf.pdf). The article was so described as to serve as a good reference for those who wish to trace his demonstrations. Probably there are much more of his well-designed contributions all over the world. Thus, I believe that his demonstrations will be succeeded by a number of teachers and continue to inspire the future generations repeatedly.
 It is a pity that we can no longer watch his performance. His hand-on experimental demonstrations, however, will last forever.
* CCE論文の日本語訳

 

        Obendrauf教授の訃報を接して

                                  京都教育大学教授 芝原寛泰

 

 Obendrauf教授の訃報を知り、大変驚くと同時に、講演での氏の姿が浮かんできました。来日されて日本化学会ホールおよび国際 基督教大学で行われた講演会を、本当に楽しく聴講させていただきました。同じ教職に身をおく立場として、最も印象的だったのは、講演の前に2〜3時間をか けて綿密な準備をして、さらに終了後も同じ時間をかけて、片付けを黙々とされている姿でした。非常にアトラクティブな実験を連続的に演示するには、これほ どまでの綿密な準備が必要であることを知り、一期一会の講演会に臨む氏の誠実な態度が、今でも鮮明に記憶に残っています。一人でも多くの化学を学ぶ日本の 若い人達に、氏の講演に接して欲しかったと思うのは、私ひとりではないと確信します。もはやそれも叶わず、ご冥福をお祈りするばかりです。オルガンを弾き ながら、モーツアルトの音楽を聴きながら、楽しく実験をする氏の姿をこれからも長く記憶にとどめおきたく思います。

 

   オーベンドラウ フ先生との思い出

                                   ICU高校非常勤講師 長尾明美

 オーベンドラウフ先生とは、2回ほどお目にかかりました。気さくなお人柄で、奥様のバーバラさんとお二人、温かく接してきださったこ と、とても感謝しております。
 超ご多忙で、かつ、ご病気にもかかわらず、季節の折々に、ご挨拶のメールを送ると、翌日には、すぐにお返事をかえしてくださいました。ご立派なことと思 います。天国でも精力的に実験をされていることででしょう。バーバラさんへも、どうぞよろしくお伝えください。
  オーベンドラウフ先生ご家族のお心が、健やかでありますよう願ってやみません。」

 

 

       Prof. Viktor Obendraufの急逝を悼んで

                                      国際基督教大学名誉教授 吉野輝雄

 Viktor Obendrauf先生召天の訃報をお聞きし、とても大ききなショックを受けています。マイクロスケール実験に対する情熱をまだまだ強く持っておられた先 生ですからさぞ無念であったと想います。しかし、これまで多くの人に MCEの素晴らしさと化学のおもしろさを華麗なデモ実験で示してくれた業績は、関わった人の心にいつまでも焼き付き、語り継がれて行くものと信じます。
 Obendrauf先生が堅く信じ、毎日曜日、地元の教会でオルガン奏者として礼拝しておられた神さまの御許で、今永遠の安らぎを与えられでいるものと 信じます。しかし、遺されたバーバラ夫人と2人の息子さんの悲しみは、いかばかりかと思います。ただ神さまの慰めとこれからの生活が守られることを祈るば かりです。

 私自身との直接的な関わりとしては、2007年のICUでのSPP(「マイクロスケール化学実験の講演と教員研修」)に、 Obendrauf先生は体調が厳しい状態にもかかわらずバーバラ夫人と共に来日下さり、素晴らしい講演とデモ実験で魅了して下さったことが忘れられませ ん。そのお礼を兼ねて、2009年7月にオーストリアのウイーンで開催された国際糖質学会の折りに、南オーストリアのグラーツのObendrauf先生ご 夫妻をお訪ねしました。その時の心暖まる歓待(まさに Hospitality)には、どう感謝を表してよいのか分かりません。
 先生が胃のガンの部分に私の手を導き、触らせて下さった時の衝撃は今も鮮明に思い出し身体が震えます。昨年8月に再度の手術を受けられ、秋にはグラーツ 大学に復帰、クリスマスには新しいデモ実験で集まった人たちを楽しませたというお便りを頂き、順調に快復されているものと信じていました。それだけに、こ の度の訃報にはショックを受けました。もしかしたら12月の環太平洋化学会議のMCEセッションで、Obendrauf先生に再会できるのではないかと期 待していましたのに、とても残念でなりません。口頭発表の中で、ICUでのSPPにObendrauf先生をお迎えした時の経験も話すことになっています ので、出席者の方々と共に冥福をお祈りしたいと思っています。

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